雨があがった早。空気圧を確認しながら自転車のタイヤに空気を入れ、雨に濡れたサドルやフレームを拭き上げて、きれいになった自転車にまたがり、会社に向けて住宅街を走り始めました。
すると、どこからか、干物を焼く旨そうな香りが漂ってきました。この香りは、あの仲の良さそうな老夫婦の家かららしいなどと考えていると、干物を焼くという手間のかかる朝食の仕度をしている家の、心の豊かさを感じます。
雨上がりの朝は、季節の匂いも漂ってきます。
夏にはアスファルトに沁み込む雨の匂い。冬には鼻の奥を凍らせるような氷の匂い。そういった、季節の匂いが漂ってきます。
他人の家の心の豊かさを感じ、季節や天気の匂いを感じ、そういった毎朝の些細なことを感じ取れるのは、とても幸せなことです。
この文章を書いていて、作家カート・ヴォネガットのある言葉を思い出しました。
夏、わたしはおじといっしょにリンゴの木の下でレモネードを飲みながら、あれこれとりとめもないおしゃべりをした。ミツバチが羽音を立てるみたいな、のんびりした会話だ。そんなとき、おじさんは気持ちのいいおしゃべりを突然やめて、大声でこう言った。「これが幸せでなきゃ、いったい何が幸せだっていうんだ」「国のない男 (著:カート・ヴォネガット)」
「国のない男」を読んだことはありませんが、爆笑問題の太田光さんが、テレビ番組の中でこの言葉をとりあげられていたのを観ていて、深く心に残りました。
これからも、日々の何気ないことに幸せを感じられる人でありたいです。