「しあわせのパン」は、矢野顕子さんと、忌野清志郎さんが歌う「ひとつだけ」からインスパイアされ、三島有紀子監督が脚本を書き下ろした、映画と小説です。小説には、物語りの中にでてくる「月とマーニ」という絵本が、巻末に特別付録として付いています。
映画をみたあと、小説をよんだあと、「しあわせのパン」のことを何日も考え続けました。これを書いている今も、そして、おそらく、これを読み返すであろう、いつの日かも、「しあわせのパン」のことを考え続けていると思います。
ひとつひとつの物や事との接し方、ひとりひとりの人との接し方、そうした、ひとつひとつのことについて、じっくり考える機会を与えてくれたのが、「しあわせのパン」です。
そうしてるうちに、どんどん、まわりには”好きじゃないもの”が増えていった。
この図書館でさえ、来る度ごとに黒い森のように見えて来て、唯一人の家族、父が亡くなって、大変で、大人になって働いて、いつの間にか大変で、心が一人で小さくなって、マーニはどこにもいないのだと、心に、決めた。(P.11 プロローグ)
小説のプロローグを読んで、わたしは部屋の中を見回しました。まわりには”好きじゃないもの”がたくさんあることに気づきました。これから先も、”好きじゃないもの”を買ってしまったり、作ってしまったりするのでしょう。そういったものを、ひとつづつ丁寧になくしていかないと、わたしの心も一人で小さくなってしまいそうな気がして、心が小さく震えました。
三島有紀子監督にとっては、初の長編映画、初の小説執筆ということです。「月とマーニ」という絵本の脚本も書かれています。これほど心に残るものを映像化し、書くことができる人が居たことに驚きました。
「しあわせのパン」を、まだ観ていないかたはぜひ観てください。読んでいないかたは、ぜひ読んでください。いろいろなことを、じっくり考えるきっかけになる、素敵な物語りです。
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